|
|
<二代目市川門之助の伊達与作>
腰元重の井と不義を犯したうえ、謀られて追放される場面と
考証されている。心痛極まり悄然と去りゆく和事氏師の深み
のある演技を写楽は見事に捉えている。人差し指を鍵状に
曲げるのは写楽画特有のもので、能の演技から来ていると
する説もある。
|
<四代目岩井半四郎の乳人重の井>
今日この狂言は十段目の「重の井子別れ」のみ上演されて
いるが、この図はその段を描いたものであろう。与作と重の井
の間に生まれた子は馬子になっていたが、偶然重の井と対
面することになる。立場上母と名乗れず涙をこらえて別れる苦
衷。守り袋を手にし、わが子を見つめる表情に注目されたい。
場面は異なるが、門之助の与作と対にすることも出来るであ
ろう。 |
|
|
<三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛>
鷲塚八平次に加担して、伊達与作の奴一平から用金を奪う
役。突き出してねめつける魁偉な容貌と、懐から出し胸前に
広げた両手の印象が強烈。書き損ねたとしか思えぬ手が
脅威的なエネルギーを放つ。 |
<初代市川男女蔵の奴一平>
江戸兵衛らを相手に切りあう場面で、左図の鬼次と対を成す
と思われる作品。第1期の写楽は、取材した江戸三座から1
組ずつ選んで対を意識した作品を制作したりではないかと思
えるふしがある。 |
|
|
<市川蝦蔵の竹村定之進>
定之進は由留木家の能役者。娘重の井の不義の謝罪のた
め、主君に秘曲道成寺を伝授し、鐘の中で切腹して果てる。
写楽は当時の劇界随一の名優の風格を十分に描ききって
いる。鍵状に曲げられた右人差し指は能特有のものという説
もある。 |
江戸名所と粋の浮世絵
2007.8.1発行
三代目市川八百蔵の田辺文蔵
|